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3.2 モデル化誤差とロバスト制御

実システムの周波数応答に完全に一致する伝達関数 -- 真の伝達関数 -- を 求めることは現実的には不可能であり,通常,両者の間には,伝達関数に近似 しきれなかった誤差 -- モデル化誤差 -- が存在する. このモデル化誤差を無視して,補償器を設計・実装すると, 閉ループ伝達関数の $ {\mathcal{H}_\infty}$ ノルムが,設計時の見積もりを超えて劣化した り,最悪の場合,制御系が不安定になることがある. 後者は致命的であり,この場合,消音制御系は発振し,大振幅の音が二次音源 スピーカから出力されることとなる.

以降では,課題1で求めた 4 つの伝達関数を,真の伝達関数 から区別するために, $ \bar G_{zw}(s)$, $ \bar G_{zu}(s)$, $ \bar
G_{yw}(s)$, $ \bar G_{yu}(s)$ と表記することにしよう. これらの伝達関数は,ノミナル伝達関数(Nominal Transfer Function)と呼ば れる.

制御系が不安定となるのを防ぐためには,$ G(s)$ の 4 つの伝達関数のうち, フィードバックループを構成する伝達関数 $ G_{yu}(s)$ のモデル化誤差を 考慮して $ K(s)$ を設計すれば良い. モデル化誤差の考慮の仕方は幾つかあるが,ここでは, 加法的摂動モデルを用いて,モデル化誤差を考慮することにする. この場合,真の伝達関数 $ G_{yu}(s)$ は,ノミナル伝達関数 $ \bar G_{yu}(s)$ を用いて,次のように表される.

$\displaystyle G_{yu}(s) = \bar G_{yu}(s) + W(s) \Delta(s)$ (4)

ここで,右辺第二項が加法的摂動で,$ W(s)$ はその重み関数,$ \Delta(s)$ は正規化された摂動( $ {\mathcal{H}_\infty}$ ノルムが $ 1$ 以下の安定な伝達関数)である.

$ W(s)$ は (4)式が有効なモデルとなるように決定されなければ ならない. (4)式を $ \Delta(s)$ について解き, $ \vert\Delta(j\omega)\vert \leq
1$ の条件を適用すると,

$\displaystyle \vert G_{yu}(j\omega) - \bar G_{yu}(j\omega)\vert \leq \vert W(j\omega)\vert$ (5)

を得る.すなわち,$ G_{yu}(s)$ のモデル化誤差のゲイン特性をプロットし, それを上から覆うように,$ W(s)$ を決定すれば良い. このとき,できるだけ高い制御性能を達成するために, モデル化誤差をできる限りタイトに覆うように $ W(s)$ を決定する.

課題 3 (5)   式を導出せよ.

課題 4   実験データから,$ W(s)$ を決定せよ.


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Yasuhide Kobayashi
平成15年4月8日